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ビオトープ管理士ってこんな人たち
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file 006 江尻 裕(えじり ゆたか) さん
【富山県】

モリビオ
1級ビオトープ計画管理士

森に寄り添った持続可能な暮らし林業で地域づくりに挑む!

2級から1級にステップアップ。昨年度、富山県で初の1級ビオトープ管理士となった江尻さん。環境の時代にふさわしい森づくりを想い起業、それはまさに、自然と伝統が共存した持続可能な地域をつくることなのでした。


江尻 裕(えじり ゆたか) さん

カシノナガキクイムシをラッピングにより防除。
一般を対象とした環境プログラムで体験してもらい、
新しい森づくりへの理解を広げています。

自然豊かな山村に移住、森林の在り方について考える

  約15年前、自然が豊かな土地での生活と子育てに憧れて公務員生活を辞め、太平洋側から富山県に移り住んだ江尻さん。標高700m、森林率97%のこことが利賀村(現 南砺市利賀村)は、イヌワシが飛来しクマタカが繁殖する素晴らしい山に囲まれています。そこで森林組合の仕事に就いたのですが、方向性の見えない〝森づくり〞にふつふつと疑問が。雪深さから考えれば本来、利賀村ではスギ人工林の経営は不向きなはず。それにもかかわらず、建築用材の生産に偏った画一的な森林管理が行われていたからです。

 「森林の在り方を考え直さなければ」そのための手かがりが必要だと強く思い始めたとき、ビオトープ管理士の資格があることを知りました。持続可能な社会にとって最も重要な基盤である、健全な自然生態系。そして、生態系の健全さの指標となる、生物の多様性。人と森林の関わりを考えるうえで有効な概念であると、そのとき江尻さんは感じたのでした。


冬期林分調査のようす

冬期林分調査のようす。
積雪深が3mを超えるこの土地では、従来とは異なる
新しい森づくりが必要と思いました。

森づくりの新しいかたちアイデアと行動の人

 そして昨春、江尻さんは個人企業『モリビオ』を立ち上げました。業務内容は森林管理と森林資源の利活用が主ですが、基本理念は〝森に寄り添った持続可能な暮らしを提案する〞。これまで行われてきた森づくりとは異なります。「森林組合から請け負う森林管理では、通常なら刈り払われてしまうたくさんの種類の広葉樹を、有用樹を中心に刈り残し、森の中層、下層に多様な植生を維持するよう提案、実行しました」

 ご存知ですか? 一般的な人工林では植えたスギ以外は全て刈り払われてしまうため、生物の数も多様性も極端に低く、鳥の鳴き声さえ聞こえてこないような寂しい空間です。しかし江尻さんの森は自然との共存を目指すもの。提案を受け入れてくれた組合の懐の深さも素晴らしいと思いますが? 「環境プログラムの提供や講演などを行って、地域の豊かな森林生態系を維持することの意味や、これを思慮深く利用すれば地域の持続可能性が向上すること、そしてその意義について、理解を深めてもらえるよう努力をしてきました」その対象は、地元の子どもたちから一般の方々、団体まで幅広く、プログラムの内容も実に多岐にわたります。

 「また、刈り残した低木には、薬酒の原料にもなるオオバクロモジが含まれています。それがどのくらいあるのか資源量を調査し、ここまでなら大丈夫という持続可能な利用方法を検討したうえで、今年の春に初めて出荷しました」持続可能な森づくりと森の賢い利用。こうした取り組みがやがて地域の経済を潤し、持続可能な地域がつくられていくのです。広域的にものごとを捉える、ビオトープ計画管理士ならではの視点です。


オオバクロモジの収穫

オオバクロモジの収穫

〝賢い利用〞と〝影響の低減〞、両輪で持続可能な地域づくりを

 ところで、昨年度の試験で2級から1級へとステップアップした江尻さん、何度かのチャレンジを経ましたが、実は県内初の1級合格者だったのです。このことは新聞などでも取り上げられ、一躍時の人に。ビオトープの考え方やビオトープ管理士についての普及活動にも使命を感じているそうですが、1級ビオトープ計画管理士として今後取り組みたいことが、いくつかあるそうです。

 まずは、再生可能な資源である〝生態系サービス(自然のめぐみ)〞を持続的に利用するしくみづくりについて。利賀村の豊かな自然生態系には、連綿と続けられてきた人々の営みが深く関わり、それにより維持されてきたところがあります。しかし、先の合併以降は過疎化が急激に進行し、多様であった生態系が維持出来なくなってきているとのこと。「前述のクロモジのほか、ススキやカリヤスの草原を再生し、屋根葺き用のカヤの生産にも取り組み始めています」利賀村に隣接する五箇山は、合掌造りで有名な世界遺産。自然と伝統が共存した美しい地域づくりは、ヨーロッパなどでも進められている最も新しい地域づくりの方法なのです。


茅刈りのようす

茅刈りのようす。
生態系サービス(自然のめぐみ)を賢く持続可能に
利用するという考えは、生物多様性条約の締約国会議でも
話し合われる、国際的にも重要で基本的な事柄です。

 それと、土木などの環境改変工事による、生態系への影響の低減について。「中山間地域の多くがそうであるように、利賀村も公共工事に強く依存しています。生態系サービスに根ざした地域づくりを急ぐ一方で、林業や土木建設の現場でいま発生する生態系への影響を、出来るだけ抑える努力が必要です」事前調査やモニタリング、事後評価などの必要性を訴えるとともに、低コストな手法・手順のマニュアル化に、関係各所と協働して取り組んでいきたいと江尻さん。その目は、遠い将来をも見据えています。





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